「山林を公有地にできないか」と考えるきっかけは、多くの場合、維持管理の負担です。草刈りや境界の不安、倒木や土砂のリスク、税金、遠方ゆえの通いづらさ。さらに相続が絡むと、共有者が増えて意思決定が遅れ、結果として“放置”になりがちです。だからこそ公有地化が魅力的に見えるのですが、ここで大事なのは、自治体が土地を受け取るルートは一本ではない、という現実です。
大きくは三つ。
一つ目は 自治体に買い取ってもらう。これは「公拡法」と呼ばれる枠組みで、一定区域の土地について売却の申出や譲渡の届出をすると、自治体や関係機関が「買い取る意思があるか」を検討し、希望があれば協議に進む仕組みです。ただし協議はあくまで“協議”で、強制ではありません。制度は買取機会を開くもので、買うかどうかは自治体側の目的・予算・優先順位に依存します。公拡法には届出後の譲渡制限期間や、成立時の税制優遇(特別控除)も整理されています。
二つ目は 寄附(無償譲渡)。直感的には「タダであげるなら喜ばれるのでは」と思いがちですが、ここが最初の落とし穴です。寄附は“無料の引き取り”ではなく、自治体にとっては“将来ずっと維持管理する義務が発生する”という意味でもあります。だからこそ自治体は基準を設け、受け入れられるものだけを採納します(詳しくは後述)。
三つ目は、相続で取得した土地に限定されますが 相続土地国庫帰属制度。自治体が受けない土地でも、一定の条件を満たし、審査や負担金を経れば国に帰属させられる制度です。2023年開始の制度で、要件や流れは法務省が明確に案内しています。
自治体が寄附や買取に慎重になるのは、理由があります。自治体が一度引き取れば、それは公有財産です。事故が起きたときの説明責任も、予算の手当も、住民への説明も必要になります。つまり自治体は「もらう前から、将来の責任を背負う」ことを前提に判断せざるを得ません。
その判断軸は、次の三本に集約されます。
まず 公共性(使い道があるか)。道路や防災、緑地、公園、治山治水、水源涵養、里山整備など、行政目的としての“活用”が見えるかどうかです。逆に言えば、活用目的が描けない土地は、引き取った瞬間から“管理コストだけが発生する資産”になり、優先順位は下がります。
次に 境界・権利関係が明確かどうか。山林はここが弱いことが多い。境界が曖昧だと隣地トラブルの火種になりますし、抵当権や地上権など権利が残っていれば行政は引き取れません。実際、多くの自治体の事務要領では、寄附の審査で所在地・現況・権利関係を確認し、活用が難しい場合は断る旨が明記されています。例えば新潟市の要領は、寄附の初期段階で権利関係や負担付寄附の有無などを確認し、条件が合わなければ受けない運用が読み取れます。
最後に 受入後の負担(測量・維持管理・安全管理)に見合うかどうか。山林は、草木の管理、倒木の危険、崩落リスクなど、引き取った後のコストが読みにくい。だから自治体側は「測量して境界が確定しているか」「アクセスが確保できるか」「維持管理が現実的か」をしっかりと判断します。道路用地の寄附ですら、境界確認書など書類が求められるケースが多いのは、引き取った後のトラブルを避けるためです。
さらに山林に特化して寄附基準を制度化している自治体では、要件がより明確です。例えば岡山県美作市の規則では、所有権以外の権利が付いていないこと等の条件が列挙されています。こうした規則は「何でも受けるわけではない」が制度として言語化されたものです。
自治体が断りやすい土地には、かなりわかりやすい共通点があります。
まず境界が曖昧、または隣地との関係が複雑なケース。山林は古い図面しかなく、現地の杭が失われていることも多い。境界が揺れる土地を自治体が引き取ると、将来の境界紛争の当事者になりかねません。これは役所からすると“絶対に避けたいリスク”です。
次に 使い道が描けない。アクセスが悪い、急斜面、飛び地、まとまりがない、災害リスクが高い——こうした条件は、行政目的と結びつけにくい。結果として「引き取っても管理するだけ」になってしまいます。
さらに引き取った瞬間にコストがかかる土地も不利です。測量が必要、整備が必要、危険木の処理が必要、崩落対策が必要。寄附が無償でも、自治体は税金で維持管理費を出すことになります。議会・住民への説明を考えると、優先順位が上がりづらいのは自然です。
全国の自治体の受け入れ姿勢を調べた民間調査でも「無条件で山林寄附を受ける自治体は少ない」という傾向が示されています(民間調査ゆえ前提条件には注意が必要ですが、感覚としては自治体運用と整合的です)。
では、どうすれば通りやすいのか。結論は、自治体が嫌がる要素を先に潰すことです。
寄附を狙うなら、いきなり「寄附します」と言うよりも、まず所管課に相談して、自治体が求める要件を聞き出す。そのうえで、境界や権利関係、現況写真、登記情報、必要なら簡易な測量まで整えて、「この状態なら採納可能性があるか」を詰めます。自治体の要領には、寄附の審査が段階的に行われることが記載されており、事前相談で方向性を見立てるのが合理的です。
買取を狙うなら、公拡法の枠組みで“型通り”に進めるのが早い。申出や届出の後、一定期間で自治体から買取協議の相手が通知され、協議に進めば契約交渉へ。届出後の譲渡制限など、制度上のルールがあるので、自己流で進めるより、制度の手順に乗せて判断を早める方が現実的です。税制優遇がある点も、条件が合う人には大きい。
寄附も買取も難しい土地は、どうしても残ります。だからこそ、相続で取得した土地については国庫帰属制度を視野に入れておく価値があります。もちろん、要件がある以上、何でも通るわけではありません。管理費相当の負担金も必要です。
しかし、自治体に断られて“永久に持ち続ける”しかなかった時代に比べれば、法的に終わらせる道が用意された意義は大きい。申請要件・手続は法務省が詳細に示しているので、自治体交渉と並行して「自分の土地が要件に乗るか」をチェックしておくと、出口戦略が明確になります。
自治体にとって、土地の受け入れは“善意の引き取り”ではなく、“将来責任の引き受け”です。だから受け入れ基準は冷静で、公共性・境界・負担の三本柱で判断されます。
逆にいえば、境界を明確にし、権利を整理し、活用の絵を用意して相談に行けば、議論の土俵に乗る可能性は上がります。それでも難しければ、相続土地国庫帰属制度という最終出口がある。
この順番で進めれば、「期待して動いたのにゼロ回答だった」という結末を迎えることは少ないでしょう、最短距離で“現実的な着地”に近づけます。