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遺言・家族信託で“揉めない山林承継”:名義変更より先に決めること

山林の承継で最初に決めるべきは、相続「後」に名義を書き換える手続そのものではありません。肝は、相続「前」からの管理設計——すなわち、誰が日常管理を担い、どの範囲まで伐採や売却といった意思決定を許すのか、そしてそれをいつ、どのタイミングで次世代へ引き渡すのかというルールづくりです。ここで機能が分かれるのが遺言と家族信託。遺言は死亡時点から効力を発する最終意思で、公正証書遺言(公証人が関与)と自筆証書遺言(自書。法務局で保管できる制度あり)が中核です。公的な説明として、政府広報や法務省は、遺言の主要類型や自筆証書遺言の法務局保管制度を明示しています。遺言方式の基礎と保管制度の存在は、手続の安定に直結します。

他方、家族信託は“生前から”財産管理を委ねる仕組みで、管理や処分の権限を受託者に与え、受益者の利益のために運用させる点が本質です。不動産を信託に出すときは、受託者の名義に移す所有権移転登記と、信託であることを第三者へ公示する信託登記が求められるのが実務の大前提です。法律実務の解説でも、不動産が信託財産に含まれる場合は所有権移転登記および信託登記が必要と整理されています。これにより「誰がいつまでどこまで管理できるか」が可視化され、相続開始時の混乱を減らせます。

1. 名義変更より先に押さえる法的地雷——相続登記の義務化と“手放す”という選択肢

2024年4月1日から、不動産の相続登記は「義務」になっています。相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しないと過料(10万円以下)の対象になり得ます。古い相続で放置されている土地にも猶予付きで義務が及ぶ旨が各法務局で案内されています。名義を書き換えるのは“最後にやる事務”ではなく、法的期限を意識した前提作業だと理解してください。さらに、相続した土地を一定の要件の下で国に帰属させる「相続土地国庫帰属制度」も2023年から始まりました。管理不能な山林を無理に抱えて家族が疲弊するくらいなら、費用と条件を見極めたうえで“手放す”選択肢を検討できるようになったのは大きな制度変化です。

2. 山林特有の“揉めポイント”を先回りで封じる——遺言・信託に盛り込むべき条項

山林は境界・地積・作業道・治山施設・伐採規制など、宅地より論点が多い資産です。遺言や信託契約で、境界確認の進め方、立木の処分権限、再造林の費用負担、収益(立木売却代金や地代)の配分ルール、災害発生時の意思決定手順まで文言化しておくと、相続開始後の“誰が決めるのか問題”を減らせます。遺言の方式自体は法で定められ(自筆証書、公正証書、ほかに秘密証書等)、様式逸脱は無効に直結します。形式要件が整ったうえで、山林特性に踏み込んだ運用条項を重ねるのが、実務のセオリーです。自筆証書遺言なら法務局の保管制度を使えば、紛失・改ざんのリスクを抑えられ、開封や検認手続の負担を軽減しやすくなります(制度の詳細・手続は法務省が公表(PDFはこちら)。

家族信託では、受託者の分別管理義務(信託財産と固有財産を分ける義務)という重要な原則があり、不動産についてはその趣旨からも登記による公示が重要視されます。専門職の実務解説でも、契約開始や変更、終了、売却などの局面で信託登記が必要になる点や、所有権移転登記と併行して行う運用が案内されています。山林のように長期・分散管理を要する資産では、権限と登記事項の設計が後々のトラブル回避に直結します。

3.生前の設計→死後の承継→期限内の登記

実務の流れは、①生前:家族信託で管理と処分のルールを整え、必要なら受託者へ名義を移し信託登記で公示、②同時に:遺言(できれば公正証書)で死亡後の最終配分と最終管理者を指定、③相続発生後:法定期限内に相続登記(やむを得ない場合は相続人申告登記の活用も検討)、という順番が安全です。

自筆証書遺言を選ぶ場合は、法務局の保管制度を使って“有効な原本を適切に保つ”ことが重要です。制度面の裏付けは、相続登記義務化に関する法務省Q&A、相続人申告登記の説明資料、そして自筆証書遺言保管制度の公式解説にあります。これらを踏まえれば、「設計→公示→期限管理」の三拍子がぶれません。

4.いくら・どこまでやるか——費用感と“やらないリスク”の天秤

費用はケースで変わりますが、遺言は公正証書の手数料+専門家報酬、自筆証書なら保管手数料(1通3,900円)などが目安です。家族信託は契約書作成、公証役場手続、登記(所有権移転・信託登記)に係る登録免許税と専門職報酬が中心となります。不動産が絡む信託は登記が不可欠という実務整理があり、費用負担を避けるために“登記を省く”判断は、将来の取引・承継で高確率に支障を生みます。

 

逆に、制度を使いこなせば、管理コストや家族の心理的負担を小さくできる余地は大きい。相続登記の義務化という“やらない場合の罰則リスク”まで含めて、設計コストと比較する視点が欠かせません。

5.まとめ

  • 名義変更を急ぐ前に、遺言と家族信託で「誰が・何を・いつまで管理するか」を文書化し、公示(登記・保管)で外部に伝わる形にする。

  • 制度の根拠は、遺言方式と保管制度の公的解説、相続登記義務化のQ&A、相続人申告登記・国庫帰属制度の要綱、そして不動産信託における登記必要性の専門実務。いずれも最新の公式情報を軸に設計することで、法的リスクと家族の負担をともに最小化できる。

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